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- Voyage -⑥

「親父に頼みがあるんや」
 クシモトをコンビニに送り届けてから帰宅する。まっすぐ事務所に向かうと、事務員のオバちゃんは帰った後で、親父が一人でパソコンの画面を睨んでいた。
「おお、いいとこ来たな。まあ座れ」
 画面は中古車のオークションサイトで、たまに常連客に頼まれると良さそうなのを競り落として修理して売るのだ。頼みて何や、と問われて、パソコンの前に座りながら、ここ継ごう思うねん、と答える。
「……なんや、もうモデルはええんか」
 一瞬の間があってから問われる。どうやら担任から連絡が行っていたらしい。ええんや、と答えると、背後から画面を覗き込んでいた親父がゆっくりと体を起こした。
「軽トラでエエんやろ?」
 何年落ちまでエエんや、と問うが、返事が無い。後ろを振り仰ぐと、渋い顔と視線が合った。
「わかっとんか。お前の『就職』は、他の同級生らの就職とちゃうんやで?」
 再び画面に視線を戻し、わかっとる、と答える。
「未練残しとったら絶対に続けられるもんちゃうで?」
「残しとらん」
「社長は謂わば船長や。乗組員とその家族の生活を全て背負う覚悟が要る。一度船出したら、途中で降りる言うわけにはいかんのやで?」
「わかっとる」
 めぼしい車を探してカチカチと頁をめくりながら答えると、頭の上で、フゥ、と大きな溜息が聞こえる。
「まあ、まだ俺も若いし、お前の納得が行くまで好きなことやってからでも……」
 諭すような親父の言葉を、俺な、と言って遮る。
「守りたい奴がおるんさ。そいつのこと、そいつの家族も人生もまるっとひっくるめて守りたいんさ」
 反応が無いので振り返ると、意外そうな目とぶつかる。女か、と問われて、男や、と答えた。
「そいつ、親がおらんくて、バイトして弟妹たちを食わしとんやん」
 再び画面に視線を戻し、条件の良さそうな車を探しながら頁をめくる。
「ちっさて細っこいのに、めっさ偉い奴なん。必死で踏ん張っとるそいつを見とると、体ん中がどうしようもなく熱ぅなるんさ」
 めぼしい車を数台見つけて、その情報をプリントアウトする。
「そいつのお陰で俺は、親父が汗水垂らして働いた金で学校行かしてもろとることにも、親に反発して別の道行こ思てるだけやゆうことにも気付くことが出来たんや。めっさ感謝しとる」
 それらをプリンターから取り出し、親父にホイと差し出すと、何とも複雑な思案顔とぶつかる。眉根を寄せた、その渋い顔を見ながら、ここが正念場と腹を括った。クルリと椅子ごと振り返り、親父と正面から向き合う。
「守りたい守りたい言うても、自分には何の力もあらへん。ほやで頼んどるんや。俺たち二人をこの船に乗せてくれへんか。俺を男にさしてくれ」
 頭を下げたその時、ガチャッとドアが開いて古参の整備工が入って来る。そして、同時に振り向いた親子を見ると、人好きのする顔で二カッと笑った。
「なんや懐かしな。社長が奥さん貰いなすった時のことを思い出すわ」
 親父と同級生のこの人は、親父が起業した時からのメンバーで、自分にとっても親戚みたいな人である。
「ボンもいつの間にか男になってござったんやねえ」
 さすがは社長の息子や、エエ男になりはって、という言葉に、何が男や、と親父が返す。
「まだまだガキや」
 けんもほろろのその言葉に、古参の整備工がニヤと笑う。
「ガキやガキや思とりたいんは親の方ちゃいますか」
 なんせボンは社長にとっては目の中に入れても痛ないくらいの自慢の息子やで、と言われて、親子で顔をしかめた。
「アホくさ」
「キショいからやめてくれ」
 ハモリながら言うと、ハハハと声を上げて笑われる。
「まあ、仕事はぎょうさんありますよって、若い力は大歓迎ですわ」
 そして、ほな帰りますぅ、と言うと、タイムカードを押して出て行く。その背中が消えたドアを見るとなしに見ていると、親父が一枚の紙を机の上に置いて、指の節でトントンと叩いた。
「事務室の二階が空いとんで、次の休みにでも片づけたらええ」
「え……」
 事務室の二階には部屋が二つあるが、今は住み込みの従業員はいないので物置になっている。トイレと風呂は階下の従業員用を使うしかないが、簡易キッチンが付いているので住むには問題無い。ええの、と問うと、早くエントリーしろとせっつかれる。慌てて画面に向き直って金額を入れていると、再び言った。
「うちに今おる従業員は、俺が起業する時に付いて来てくれた工業の同級生や後輩たちや。金だけの繋がりやとすぐに離れるけど、心が繋がっとるとどんな苦境でも一緒にネバッてくれる。ほやで俺も、奴等を守る為に何が何でもネバる。お前が社長になる時には、そういったメンバーを集めて貰いたい思とるんや。その凄い子ぉは、お前のその第一号になるんやで、大事にせなあかんし、守ってやらなあかん」
 ここなら家賃も光熱費も要らんし、飯も母屋で一緒に食えばええ、と言われて慌てて振り向く。
「すぐに呼んでもエエッ? 弟妹も一緒にやでッ?」
 ここからだとバイト先は遠くなるが、弟妹たちの小学校は近くなる。そう言うと、明日でも半年先でもそう変わらん、と言って笑われる。
「おおきに!」
 善は急げと立ち上がり、ガタガタと椅子や机にぶつかりながら戸口に走る。しかし、ドアを開けたところでハタと我に返り、こちらを面白そうに眺めている親父を振り返った。
「今さら、やっぱりダメや、言うてもアカンでな! 男に二言は無いんやでな!」
 半分脅しながら念を押すと、誰に言うとんのや、と言って笑われる。
「アホ言うとらんと、早よぉ男になって来い」
 ニヤと笑いながら言われて、その含みのある笑みにちょっとだけビビる。自分でもまだよくわかっていないクシモトへのあれやこれやを全て見透かされたような気がして、やはり親父には敵わないと思った。

 そして、朧げだった未来が大きく音を立てて動き出す。
 その先にクシモトの笑顔があれば何も要らないと、本気で心からそう思った。 




ありがとう!
photo by ASAHI


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皆様、いかがでしたでしょうか?
ドキドキしましたね!オカマツはしました!
『駄菓子屋中毒』では、脇役に徹してくれたサカトクが
こんな出会いをして、こんな風に強く優しくなっていたのかと
思うと、胸が熱くなります。
来世子様、本当にありがとうございます。
心からお礼申し上げます。

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オカマツがこの二人のその後もちょっと描いてみました。興味あったら覗いてみて下さい。→- Voyage -その後



2014-05-17
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